トラックドライバーが不足しているのに、鉄道貨物が盛り上がらない理由 ニューストピックス トラックドライバーが不足しているのに、鉄道貨物が盛り上がらない理由 ●ドライバー不足が深刻なトラック業界 報告書によると、少子高齢化の流れの中で2015年度までに14万人のトラックドライバーが不足するという。運ぶモノがあって、トラックがあっても、それを運転する人がいない。 全日本トラック協会によると、「2015年までの経済成長率、営業トラックの輸送量、他産業との賃金格差などの指標に基づいて、トラックドライバーの需給予測を行ったところ、労働力確保への努力が何らなされなかった場合、2015年度では最大14.1万人が不足」という。その理由は、定年などによって団塊世代の雇用ドライバーが減ること、老齢によって自営ドライバーが減ることだろうか。 また、若者からのトラックドライバーの成り手が少ないとも言える。トラック協会はこの理由を、過酷な労働や賃金や拘束時間の長さなどで、(実態より)イメージが悪いからと考えているようだ。私は運転免許制度の変更も一因があると思う。かつては普通免許で4トン積みトラックも運転できた。しかし2007年から中型免許免許制度が始まった。それまでは普通免許があれば4トン車からトラックドライバー生活が始まり、仕事が気に入れば、そこから大型トラック免許へとステップアップできた。しかしいまは4トン車に乗るために中型免許が必要で、ハードルが高い。 現在のトラックドライバーの平均年齢は44歳前後で、平均勤続年数が12年と短い。これは高齢の転職者が多いからか、若者の定着率が低いか、その両方だろうか。荷主からの需要が変化せず、トラックドライバーが減った場合、個々のドライバーの負担は大きくなる。休日が減り、休息を取りにくくなり、結果として事故が増える可能性が高まる。 ドライバー不足が顕著な分野は長距離ドライバーとのことで、トラック協会ではドライバー確保のために、事業者向けにイメージアップの提案をしている。こうしたトラック側の努力もある一方、「貨物鉄道輸送の将来ビジョンに関する懇談会」は、長距離トラック輸送を鉄道貨物輸送にシフトしてはどうか、と提案している。 鉄道には強固な安全システムがあり、渋滞に遭わないから定時性も確保できる。長大な貨物列車も、たったひとりの運転士で輸送できるから必要人員も少ない。ただし、鉄道の場合は運転士以外の要員も必要だし、距離に応じて運転士は交代していく。それでも、トラック輸送に比べると人員は少ないし、職掌、職域によって分業するから、ひとりひとりの負担は比較的小さい。●鉄道貨物輸送の環境性能は高い、そしてコストも高い モーダルシフトに取り組んでいる日本通運の資料によると、東京―大阪間で10トンのJR貨物を輸送する場合、トラックから鉄道に切り替えれば、CO2排出量は74%も削減できる。東京―札幌間の場合、海運はトラックより38%、鉄道はトラックより64%もCO2を削減できる。こうした鉄道貨物の環境性能については国も応援しており、鉄道貨物で輸送された商品について「エコレールマーク」を付与して啓蒙している。トラック輸送から鉄道貨物に切り替えた事業者に対して、国から差額の半分までを補助する制度もある。 トラックドライバーが不足することを受け、鉄道貨物は12フィートコンテナ中心主義からISOコンテナ、31フィートコンテナへの対応が進められている。そして環境性能が高い。ここまでそろうと、鉄道貨物輸送にとっていまは追い風の時期に見える。しかし実態は違う。国内の貨物輸送シェアについて、重量で計算した場合、鉄道は1%である。 「貨物鉄道輸送の将来ビジョンに関する懇談会」は、この状態を打破すべく、JR貨物に対してコンテナやダイヤ、輸送障害対策を改善するように進言したり、海外のサプライチェーンマネジメントとの連携を求めたり、カーボンオフセット制度との連携なと、15項目の優先課題を挙げている。 本コラムでかつて紹介したように、鉄道貨物にとって、国際規格のISOコンテナ、国内10トントラック相当の31フィートコンテナへの以降は急務だ。「貨物鉄道輸送の将来ビジョンに関する懇談会」もそれを指摘し、国を上げて取り組むべきだとアドバイスしている。ただし、大型コンテナ貨車が通行できない線路について、JR貨物の努力だけではなんともできない。ほとんどの線路はJR旅客会社が保有しており、JR貨物は線路を借りて、使用料を払って貨物列車を運行しているからだ。JR旅客会社がJR貨物のために線路を改良してくれるか否か、という問題である。●なぜ貨物鉄道運賃は高いのか そして「貨物鉄道輸送の将来ビジョンに関する懇談会」の報告書には、荷主からのもっとも大きい要望が反映されていない。荷主にとってもっとも関心の高い項目は、環境問題ではない。運賃である。鉄道貨物は「輸送コストを下げたい」という要望に応えていない。これでは、いくら設備投資をしたって荷主は鉄道を使わない。使わないものに対する投資は無駄になる。そのコスト負担はJR貨物の経営を圧迫するし、国からの税金による設備投資や運賃の補助金などもきりがない。 鉄道貨物は効率の良さが特長のはずが、輸送料金面でトラックに負けてしまう。具体的な数字は見つけられなかったが、前ページにあるように「トラックから鉄道輸送に切り替えた場合に国が差額の半分を補助する制度」が必要なほど、鉄道貨物料金は高い。そのもっとも大きな理由は、JR貨物がJR旅客会社、第三セクター鉄道などへ支払う線路使用料である。 トラックは高速料金こそ支払っているものの、一般道の道路使用料は払っていない(自動車税や重量税などで間接的に払っているとも言える)。一方の貨物列車は、通過する線路の持ち主に対して線路使用料を払っている。これは旅客列車とバス、飛行機との比較と同じだ。鉄道だけがインフラの経費をすべて負担する必要があり、これが料金に反映される。 その不公平感を解消するために、旅客鉄道の場合は上下分離という仕組みが考えだされた。線路設備は自治体などが保有し、鉄道会社は使用料を支払う仕組みだ。JR貨物も上下分離と同じ構造である。しかし、JR貨物が支払う相手は自治体ではなく、JR旅客各社や第三セクターなどローカル鉄道である。線路が自治体保有だったら、自治体は鉄道会社支援のために線路使用料を下げたり、無料にもできる。 JR貨物の場合も、いっそ線路使用料を無料にしたら輸送料金を下げられ、トラックと競争できる。JR旅客会社ならマケてくれるかもしれない。しかし、赤字に悩む並行在来線やローカル鉄道会社の場合、JR貨物からの線路使用料が重要な収入源になっている。●トラック業界を巻き込んだ改革が必要 線路使用料がある限り、鉄道とトラックの運賃格差はなくならない。これを解決するためには、いっそ「すべての線路を国道や県道と同じように国有線路、県有線路などとし、旅客会社や貨物会社が列車運行に応じた線路使用料を払う方式」にすればいい。これで、貨物だけではなく、旅客鉄道の赤字ローカル線体質も同時に解決できる。 あるいは、料金差を解消するために、トラック側を規制する方法も考えられる。トラックの取得税や重量税などを上げたり、一般道の走行分まで費用負担を求める。または、長距離大型トラックについて、例えば200キロメートル以上の区間の運行を禁止する。これで強制的に鉄道輸送や船舶輸送へシフトできる。これもトラック事業者や荷主の同意を得にくいだろう。鉄道側の受け入れ体制も整えなくてはいけない。JR貨物寡占状態を助長するから、長距離トラック禁止と合わせて鉄道貨物事業の参入自由化も進める必要がある。 どちらも頭が痛くなりそうだが、頭の痛くなるような施策を開発し、話し合う場が「貨物鉄道輸送の将来ビジョンに関する懇談会」ではなかろうか。線路使用料問題に目をつぶってはいけない。エコレールマークや省エネなどのスローガンだけでは、鉄道貨物へのモーダルシフトは起きない。これを明確な事実として認識する必要がある。 PR