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物流拠点:滋賀県彦根市・大津市・京都市・三重県津市 人材サービス 飲食サービス
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毎週月曜日、週刊東洋経済と東洋経済オンラインで交互に連載が進んでいく「成毛眞の技術探検」。週刊東洋経済版は図版が充実。それに対し、東洋経済オンライン版は記事のボ リュームが多く、写真も充実。・・・・という具合にそれぞれの媒体の特性を生かして展開していきます。今回はヤマト運輸の物流拠点に行ってみた。
講義終了後、グループに分かれて見学へ向かう。まず目に入ったのは天井の照明。LEDではなく蛍光灯だった。あちこちについている監視カメラが気になるのは『相棒』の見過ぎだ。
1階・2階は荷搬エリア。全長1070メートルのコンベアの上を、時速9.7キロとジョギング並みの速さで荷物群が流れていく。コンベアは一枚の帯ではなく、セルが連なっている。1枚のセルの上に1つの荷物。セルの数は1336。ときおり、一部のセルがコンベアの本流とは別の方向へスライドする。だるま落としのイメージ。すると荷物が本流から外れ、支流へ乗る。こうやって仕分けているのだ。
運ばれている荷物はすべて、ヤマトの箱に入っている。アマゾンの箱がひとつもない。ヤマトの袋もない。なぜなら今日流れている荷物はすべてサンプルだから。実際に稼働すれば、もっと見た目は賑やかになるのだろう。
自動運転なので人がいない。車から降ろした荷物を搬送する機械も、そこから荷物をコンベアに乗せるロボットアーム(30キロまでOK)も、オートで動いている。どの荷物をどこへ仕分けるかの情報は、伝票に印刷されたバーコードが持っている。赤い光を放つ装置が、それを適宜読み取る。
■ 上層部は付加価値機能エリア
3階から上は、付加価値機能エリアと名付けられている。1、2階と3階以上を縦につなぐコンベアもある。流れるプールのようなスパイラルコンベアだ。上層階で“付加価値”をつけた荷物を、これで240メートル横へ下へと動かし、下ろしてくるのだ。7階から1階までひと続き。時速3.6キロと言うから、歩くくらいのスピードだが、それでも、人間がエレベーターで運ぶよりは効率が高い。
付加価値機能エリアでは、どんな価値が付加されるのか。6000キロまで耐えられる巨大な荷物用エレベーターで7階へ上がると、そこは倉庫だった。荷物は何もない。本格稼働前だからだ。つまりだだっ広い空間が広がっているのである。
このフロアではたとえば、宅急便で返却された医療用機器を洗浄する予定になっている。再び使えるようにして宅急便で送り出すわけだ。洗浄エリアはほかのエリアとは区切られている。仕切る壁には窓が多い。中の様子がよく見られるように、だそうだ。
■ 番地が振られた巨大なフロア
しかし本格開業前なので、まだ何もない。目立つのは柱ばかりだ。直方体の柱は、縦横それぞれ1.4メートルの太さ。これが240メートル×114メートルと広いフロアに屹立している。柱には01から13までの番号と、AからSまでのアルファベットが振られている。番地代わりになるのだろう。NからMまで歩くと、ボクの足では18歩だった。
ここが、今よりもっと手元に早く荷物を届けてくれる拠点。だけど、あまりそのスケールが感じられない。これが日本最大級の物流センターなのか……。この違和感は何だろう。
フロアを下る。途中、2階に集中管理室がある。部屋中、モニタだらけだ。こういう様を見ると、思い出すことがある。前に勤めていたマイクロソフトという会社で、大型のモニタが必要になったことがあった。しかし、当時はブラウン管。50インチを手に入れようとしたら大変だ。そこで考えたのは、小さなブラウン管モニタを横に並べ、縦に詰むという数量作戦。それが今や、液晶パネルを楽々並べているのだから、時代は変わった。
外へ出る。敷地内には、カフェや保育所も併設されている。そして、今回の見学のもうひとつの目的であるヤマトフォーラムもある。円形の体育館だ。これがどうしても見たかった。
この建物は、アップリフトという、耳慣れない工法で作られている。ネットで記事を見て以来、ボクはその工法の虜になっていた。その工法とはこうだ。現在は斜めの壁になっているコンクリートの板を、同心円状に、まずは地面にほぼ垂直に立てる。このときコンクリート板のてっぺんには、現在は屋根に張られている鉄骨が、つなげられややたるんでぶら下がっている。コンクリート板は計24枚が、ぐるりと並ぶ。
そして「せーのー」で、そのうち12枚のコンクリート板を支えている“つっかえ”を外し、外側へ倒す。すると、屋根用の鉄骨が引っ張られてぐっと持ち上がる。小さな模型で考えれば、ああなるほどねという工法だが、実際にはコンクリートの板は1枚9トンあり、鉄骨を1.8メートル持ち上げるのに、約5時間半かかった。やってみて「あれ、ちょっとうまくいかなかったね」というわけにはいかなかろう。
■ 建設中の現場を見たかった
屋根はその後、ジャッキで高さ8.1メートルのところまで持ち上げられ、最終的に、天井高7メートルの体育館が完成した。盃のごとき壁の傾斜などにアップリフトの名残を感じ、なるほどこれがとは思うが、それ以上のことは感じられない。「へえ。これが見たかったんですかあ」といわんばかり編集者の視線を感じ、つい、うつむいてしまう。
じわじわとコンクリート板が倒れ、屋根の鉄骨が持ち上がる様子を見たかったなと後悔しきり。スゴイ工法は、やっぱり、施されているところを見たい。
決意を新たに顔を上げると、環8をはさんで向こうには、これまでに見たことのない形をした建物があった。ヤマトの敷地の外であるが、当然、視察へ向かう。壁に「HTS」とある。Hで始まるということは、羽田ナントカ、という会社のビルに違いない。
このビルのみ見た目はかなり衝撃的だ。8階建てに見えるマンションが3棟、コの字型に建っていて、その3棟にフタをするように、4階建てに見える建物が乗っかっている。HTSはHaneda Turtle Serviceの略らしい。タートルって、亀だよなあ。スカイプラザビルという名前のビルだ。
「成毛さん! 中庭にフライトシュミレーターがありますよ! 」と編集者が叫ぶ。コの字の真ん中に、それが鎮座していた。747シュミレータ機。イギリスのレディフォン社製で、JALは1980年から2006年までの間、これを使っていたという。その間、2000人以上のパイロットやフライトエンジニアが、訓練に使用した。と説明書きが添えられている。
■ 宅急便はアップルと同い年
これで26年間で2000人が、か。感慨にふける。宅急便が生まれたのは1976年。2014年で38歳だからアップルコンピュータと同い年だ。誕生から今日まで、いったいいくつの宅急便を扱ったのか。年間で15億だから、数百億といったところか。
羽田は物と人のジャンクションだ。それだけでなく、時空の軸も交差しているのではないか。
そして再び思うのは、先ほど見学した羽田クロノゲートのこと。本格稼働が始まれば、確かにここが巨大な物流の中心地になる。動く荷物を赤血球に例えれば、羽田クロノゲートは心臓になるわけだ。すると大事なのは、建物のサイズよりもむしろ、その心拍のリズムや送り出す血流量であり、大きさを語るなら、建物の規模だけでなく、その先に張り巡らされている血管の太さや長さ、そこまで確実に届けられる酸素の量や質など、容易には俯瞰できない規模のシステム全体を語るべきなのかもしれない。
羽田クロノゲートという名は、ギリシャ時代の時間の神であるところのクロノスと、国内とアジアのゲートウェイとなるべく、そこにゲートという言葉を組み合わせたという。おそらく、クロネコのクロも含まれている。またまたパンフレットから借りると〈『新しい時間と空間を提供する物流の「玄関」であるとともに、物流の新時代の幕開け』を表現しています〉という。
物と時間の交わる、この土地にふさわしい名前と言えよう。2014年1月には羽田クロノゲート施設内に見学コースがオープン予定。お運びの際には、周辺もぜひお楽しみいただきたい。