<郵政上場>時価総額17.5兆円…3社売り出し価格上回る ニューストピックス 日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の郵政グループ3社が4日、東証1部に同時上場した。終値はいずれも売り出し価格を上回り、3社の時価総額の合計は約17.5兆円に上った。1987年のNTT(初値で約25兆円)に次ぐ大型上場だが、投資家の期待に応えて成長を持続させるための課題は山積している。【工藤昭久、山口知】 上場を果たしたものの、グループの業績は弱含んでいる。持ち株会社である日本郵政は、2016年3月期連結決算の最終(当期)利益を前期比23%減の3700億円と予想。子会社のゆうちょ銀行の最終利益が同13%減の3200億円と2期ぶりの減益を見込むためだ。 メガバンクなどが海外を含めた大企業向け貸し出しや、投資信託などの販売手数料収入で大きく稼いでいるのに対し、融資業務などに制限があるゆうちょ銀は、売上高にあたる「経常収益」の9割近くを資産運用収益が占める。投資先の半分は国債だ。金利が高い時期に購入した国債の払い戻しが進み、低金利の国債に置き換わっていくため、運用利回りは悪化。ゆうちょ銀の長門正貢(まさつぐ)社長は「国債以外への投資を進めて運用収益を増やす」と説明。証券会社などから運用のプロを引き抜き、外国株式など国債より高い利回りが期待できる金融商品への投資を増やしているが、収益の押し上げ効果は今のところ限定的だ。総務省幹部は「住宅ローンなど新規業務による事業の多角化を進めないと、メガバンクのように収益を継続的に上げていくことは難しい」と懸念する。 その新規業務に対しては、民間金融機関が「民業圧迫」と批判を強める。ゆうちょ銀は12年に住宅ローンや企業向け融資といった新規業務の認可を申請したが、親会社の日本郵政への政府出資という「暗黙の政府保証」があることなどから、民間が不利な立場に追いやられるとして、認可のめどは立っていない。かんぽ生命も、過去には学資保険の新商品の認可に1年半を要した。 金融2社に対する日本郵政の出資比率が50%を下回れば、新規業務参入の手続きは、国の認可制から届け出制に緩和されるが、その時期のめどは示されていない。郵政民営化に慎重だった民主党政権が株売却を遅らせたかったからだ。金融2社の幹部からは「現政権は早期に株式売却を進めてほしい」との声も上がる。 一方、貸し出しが伸び悩む地方銀行や民間生保には金融2社との提携を模索する動きがあり、日本郵政の西室泰三社長も「交渉中の提携案件は複数ある」と明かす。上場を契機に提携が進むと、金融2社の収益を下支えする可能性はある。 ◇赤字の郵便改革急務 経営の重しになっている郵便事業では、全国一律の(ユニバーサル)サービスを手掛ける義務と経営効率化の両立が難題だ。 「落石で道がふさがり、配達できない日もあります」。東京都西部、山林が広がる奥多摩町。奥多摩郵便局員の清水知哉さん(25)が配達の苦労を明かす。舗装されず、山道を5分以上歩いてたどり着く民家も点在する。清水さんは「住人が一人でもいれば届け続ける」と話す。同町は人口約5400人。人口減少が進み、郵便物の取り扱い減少にも歯止めはかからないが、日本郵便は各市町村に一つ以上の郵便局を設置する義務がある。 メールの普及で郵便物が減少し、全国に約2万4000局ある郵便局の8割は郵便事業が赤字だ。郵便は全国一律で「週6日、原則1日1回の配達」などのサービスが義務付けられている上、自民党の支持基盤の全国郵便局長会(全特)もにらみをきかせている。簡単に撤退はできない。 14年度の郵便・物流事業は100億円規模の営業赤字。日本郵便の収益は、ゆうちょ銀とかんぽ生命からの計1兆円規模の窓口業務手数料で支えられているが、手数料は2社の株主から見直しを求められる可能性がある。郵便・物流事業の立て直しは待ったなしの課題だ。 海外に活路を見いだそうと、今年5月には豪物流大手トール・ホールディングスを約6000億円で買収。トール社は東南アジアで多くの拠点を持つものの、日本の拠点は少ない。「どこまで相乗効果を期待できるのか」(アナリスト)と懐疑的な見方もある。ライバルのヤマト運輸は大型物流施設を相次いで開設し、ネット通販の需要を取り込むが、日本郵便はこうした動きで出遅れ、宅配市場でシェアを伸ばせない。日本通運の「ペリカン便」との事業統合で遅配問題を起こした後遺症もあり、反転攻勢のハードルは高い。 ◇市場「滑り出し上々」 日本郵政グループ3社の株価は、需要をもとに事前に算出した売り出し価格を大きく上回った。「上々の滑り出し」との評価が多いが、株価を安定して上げるには、成長戦略の構築が不可欠だ。 大和証券の東京都内のコールセンターでは4日朝、投資家の問い合わせが普段より倍増。オペレーターを約2割増員して対応した。 3社の株価は堅調に推移し、日本郵政が1760円(売り出し価格1400円)、ゆうちょ銀が1671円(同1450円)、かんぽ生命が3430円(同2200円)で取引を終えた。株式が少ないかんぽ生命はストップ高となり、売り出し価格を56%上回る盛況ぶりだった。 PR