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株式会社 一新 ISHIN CO.,LTD.

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トップ3の寡占進む宅配業界 過酷な価格競争の消耗戦展開中

どこよりも早く、安く、そして多くモノを届けようとするこの宅配戦争は、いま「宅配ビッグバン」と呼ばれる臨界点を迎えようとしている。ヤマト運輸・佐川急便・日本郵便の上位三社による市場占有率の合計でみると、過去一〇年に八三%台から九二%台と一〇ポイント近く増えている。宅配業界でいま何が起こっているのか? ジャーナリストの横田増生氏が、その現場に潜入した。





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 トップを走るヤマトや佐川の現場の声に耳を傾ければ、どんな言葉が聞こえてくるのだろうか。ヤマト運輸で二〇年近くセールス・ドライバーをやっている玉井靖男=仮名は、「体感で言えば、この二〇年で作業量は五〇%ほど増えたけれど、給与は一〇%減った感じですかね。個人的には時間指定サービスの導入で労働環境が厳しくなったと思ってます」  

 佐川急便はここ五年の間に、下請けの幹線輸送業者の運賃を二回値下げした。合計の値下げ幅は一〇%を超える。九州に本社を置く幹線輸送の専門業者は、値下げの影響で二年連続の赤字に陥ったため、九〇台あった佐川急便向けの大型車両のほとんどを引き上げた。同社のトップは、「ドライバー不足で売り手市場のため、安くなった佐川の荷物を運ぶよりスポット(臨時配送)の荷物を運ぶ方がもうかる」と語る。

 値下げ競争による消耗戦に最初に音を上げたのが佐川急便だった。リーマンショック後の二〇〇八年からの五年間で運賃単価は、五一九円から一割以上下がって四六六円となった二〇一二年に、適正運賃の収受に乗り出した。

 採算割れしている荷主企業に対して、佐川急便が利益を確保できるような運賃水準に上げてくれるように要請し、それが受け入れられないと業務を打ち切った。その仕上げとなったのが、二〇一三年三月末、佐川急便がアマゾンジャパンとの取引のほとんどから撤退したことだった。

 一方、ヤマト運輸が適正運賃の収受に乗り出すのは、その一年後のこと。二〇一四年に入ってから荷主企業との交渉を始めた。背景には、看板商品だったクール宅急便でのずさんな温度管理が前年一一月に発覚したことがあった。

 同社はこれまで宅急便の個数を元に、社内で需要予測を立て、仕事量を予測して、作業の手配をしてきた。しかし、シェア獲得競争のため、サイズという概念が抜け落ちてしまった。同社の長尾常務は次のように説明する。

「これまでは、大きな荷物であっても(運賃が一番安い)六〇サイズで計上することが少なくなかった。そのため、取り扱い容量が把握できなくなっていた。それが、クール宅急便の不祥事を招いた大きな原因になった。その反省から、個数はもちろん、サイズも正しく計上しそれに見合った適正な運賃をいただこうと荷主企業と話し合いを進めている」

 トップ二社が運賃適正化という事実上の値上げ交渉の結果、取扱個数を減らしている中、“漁夫の利”を手にしたのが日本郵便だった。二〇一五年三月期の中間決算で、ゆうパックの取扱個数は対前年比で一四%増の二億三〇〇〇万個の独り勝ちとなった。

 その日本郵便が今期、ヤマト運輸の牙城を切り崩す武器としたのが、二〇一四年五月に発売した〈ゆうパケット〉だ。ヤマトが最も得意とする六〇サイズの荷物に的を絞り、判子のやり取りなく投函するだけの商品で、定価は宅急便の半額以下となっている。こうしてトップ三社による果てしない価格競争が続いている現状は、「宅配ビッグバン」と呼ばれている。

 いまや宅配便は社会のインフラとなっており、その利便性は広く享受されている。しかし、今回の取材で私は多くの現場に足を運び、現場の話に耳を傾けてきた。その結果、トップ三社による値下げ合戦のため、宅配便を取り巻く環境は日に日に厳しさを増し、ところどころに綻びが目立ってきた。このまま消耗戦を続けるなら、宅配便の仕組みを維持することが難しくなっているようにみえてきた。
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