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日本郵便、高齢者支援サービス開始から透ける、先細る郵便事業への焦りと、上場への暗雲

8月26日、日本郵政グループの日本郵便が、安否報告や買い物代行を軸とした高齢者の生活支援サービス事業を10月から始めると発表した。

 ある総務官僚によれば、「2005年の郵政選挙の亡霊(=郵政民営化へ賛成/反対という対立軸)をいまだに引きずっている現れのひとつだ」という。





7月の参議院選挙では、全国特定郵便局長会(全特)の柘植芳文元会長が自民党から全国比例で出馬し、約45万票をとってトップ当選を飾った。郵政選挙で自民党と袂を分かった全特が自民党に戻ったことで、党内の隠れ郵政族議員は力を戻しつつある。

「柘植さんの主張は、全国津々浦々にある郵便局で、あまねく人々にユニバーサルサービスを提供する。そのために新サービスをやっていくということ。郵便局事業の収益が崩れ、地方の郵便局がなくなるなどして数が大幅に縮小されれば、全特の力も族議員の力も落ちる。なんとしても、それは避けなくてはいけないというものです」(前出の総務官僚)

 郵便行政を取り巻く環境は、郵政選挙の時と何ひとつ変わっていない。むしろ7年かけて“先祖返り”したのかとすら思われる状況なのだ。

 だが、隠れ族議員や全特が焦るのももっともだ。

 確かに今年の3月期決算では、連結純利益が前期比20%増と、07年の民営化以降、最高益を出したが、プラスの要因は主にコストカットにある。日銀の超低金利政策が影響して、次の決算では4割近い大幅減益となる見通しだ。

 日本郵政の主力子会社が、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険であることは今さらいうまでもないが、来期の事業別の純利益見通しでは、日本郵便が最悪の数字を出すことはほぼ間違いない。郵便局事業が約70%減、郵便事業にいたっては、約90%の減益が見込まれている。電子メールなどの普及で郵便物の取り扱いが大幅に減ったことや人件費が経営を圧迫している。このまま手をこまぬいているわけにはいかない、というのが本音だろう。

●新サービスの成否は視界不明瞭

 中堅化粧品メーカーの社員は言う。

「それほど大量ではないのですが、顧客宛に年に2回はダイレクトメール(DM)を出します。以前はメール便を出しに近くの郵便局に行っていたのですが、最近は郵便局側から『何かご用があれば、ぜひうちを使ってください』と、ご用聞きに来るようになりました」

 DM事業は5000億市場ともいわれ、郵便局以外にもヤマト運輸など競合他社がしのぎを削っている分野だ。そこで少しでも売り上げを増やそうということなのだろう。

 会員の取り込みにも必死だ。以前、郵便局が行うカタログ事業「頒布会」のサービスをめぐる利権について記事にしたが、今後は流通企業と本格的に提携し、米や水など生活必需品を定期的に自宅に届ける買い物支援サービスも始めるという。

 だが、この分野でも、すでにセブン-イレブンなどのコンビニチェーンが先行している。

 そもそも地方の高齢者にはひとり暮らしが多く、体力的にも自分で調理する機会は年を重ねるごとに減っていく。すでに出来上がった総菜や弁当などを配達してもらったほうが楽だろう。それにコンビニでは今や、売っていないものを探すほうが難しいほどの品揃えだ。店舗数も、郵便局に負けないほど多い上、信用もある。しかも、幅広い年齢層が顧客対象になので、収益の柱がいくつもあるのだ。郵便局は生活の悩み相談や、顧客の健康状態を確認するサービスも始めるというが、利益を出すのは困難だろう。

 画期的な事業戦略が描けない以上、15年秋の上場までの道のりは、険しいものとなるのは間違いない。
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