<ウーバーイーツ>店頭価格で出前 続くか「三方良し」 ニューストピックス 配車サービスを展開するUber(ウーバー)が昨年9月、東京都内で配食サービス「UberEATS(ウーバーイーツ)」を始めた。昔ながらの「出前」だが、配達の人手や費用を複数の飲食店で共有する「シェアリングエコノミー」型のビジネスだ。利用者は約150店からメニューを選べ、配達員にとっては好きな時間に働けるとあって滑り出しは好調、対象エリアも順調に拡大している。ただし、店、配達員、利用者の「三方良し」が実現しているのは、ウーバーが配達料を負担しているからで、採算面から継続を不安視する声もある。勤務先が今年から対象地域に加わったと知り、実際に利用してみた ◇注文してみた 店頭価格、40分で届く 毎日新聞社は千代田区一ツ橋にある。対象地域になっていることを確認し、千代田区有楽町にある有名店のドーナツをウーバーイーツで注文してみた。 まず専用アプリをスマートフォンにダウンロードし、配達先の住所を入力する。空欄にはビル名や階数を書いてもいいし、受け取る場所を記入してもいい。 配達先によって表示される、注文可能な飲食店の一覧からドーナツ店を選び、写真付きのメニューから「12個入り(2000円)」を選んだ。店頭で買っても同じ代金だ。「注文」ボタンを押すと「用意しています」の文字と、到着予定時刻が画面に表れた。15分ほどすると「配達中です」に変わり、地図に配達員の現在地が表示された。 受け取り場所に指定したのはビル1階の毎日新聞社受付前。注文から40分後、「そろそろかな」と降りていくと、専用バッグを背負った配達員がビルの玄関に自転車で到着するところだった。専用バッグがかなり目立つのと、配達員の登録名と顔写真が事前に表示されるので、受け取りはスムーズだった。 会えない場合はアプリを通して配達員に連絡が取れる。代金は、事前に登録したクレジットカードで支払うため、配達員との間で現金のやりとりはなかった。「あの店のあれが食べたい」という時に、自分で買いに行く手間と交通費を考えると、便利でお得なサービスと言える。 ◇新しい働き方が可能に この日ドーナツを配達してくれたのは、スポーツ教室を営む佐達秀隆さん(27)。空いた時間に働ける仕事を探しており、昨年11月に登録した。 配達員になるには、登録して説明会に参加するだけだ。働きたい時間に専用アプリをオンにしておくと、近くの店に注文が入ったタイミングで依頼が届く。配達員は、配達先までの距離や配達手段などからウーバーのシステムが自動的に選ぶ。配達員は、依頼を受けるか断るかを選択できる。 配達料(配達の報酬)は移動距離などによっても異なるが、1回あたり500~600円程度。このほか、ウーバーは明らかにしていないが、「インセンティブ」(追加料金)が支払われるケースもあるようだ。佐達さんによると、雨の日の配達や、時間指定の配達に対して約300円が加算されたほか、注文が増えそうな時間帯に自分の予定を空けて待機することにより、1200~1500円の保証金を受け取った。 「ウーバーイーツ」は、料理を配達してほしい客と出前を導入したい店、そして好きな時間に働きたい配達員をウーバーが仲介するサービスだ。店にとってのメリットは、配達員や配達手段を自前で用意せずに済むこと。客にとっては、出前しない店の料理を店に行かずに味わえるだけでなく、対象地域であれば世界中どこでも、旅先でも注文ができる。けがや病気、子育てなどさまざまな事情で外出がままならない場合にも重宝しそうだ。配達員にとっては「空き時間」に働くため、働く時間帯や曜日を固定する必要がない。急に仕事の予定がなくなった時などにも融通が利く。 ◇初心者でも研修なし 「自己責任」で働く 一方で課題もある。 配達員には約1000人が登録したが、未経験者でも研修はない。配達員同士の交流もないため、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を介してノウハウを教え合うなど個人的な情報交換に頼っている。配達手段は自転車とバイクに限られるが、配達中に事故にあっても補償制度は用意されていない。ウーバーは仲介するだけで雇用関係はなく、店との関係も「その時限り」。配達員は自己責任で動くのが原則だ。 昨年秋に数日間経験した会社員男性(35)は「自前で保険に入らないと、怖くて続けられない。でも働き続けない限り、保険料の方が高くつく」と話す。 「配達料が支払われない」という苦情も当初は寄せられた。ウーバーによると、支払いが海外送金扱いのため、金融機関によって手続きが異なり支払いが遅れたという。同社は「ほとんどのケースで解決した」としている。 ◇配達料負担はどうなる? 現在、配達員が受け取る配達料はウーバーが負担しており、利用客は少量の注文でも料理の代金だけで利用できる。港区と渋谷区でハンバーガーショップ「バーガーマニア」を経営する守口駿介さん(32)は「店はウーバーに対して、配達による売り上げの3割を手数料として支払うだけ。出前コストがかからない上に、席数を上回る注文でも受けられるので、店の利益は上がっている」と歓迎する。一方で、「サービス継続に展望を持てない」と不安も見せる。例えば1000円の注文で店が支払う手数料(300円)だけでは、配達員への報酬はまかなえない。「配食で利益を求めるなら、最低数千円は注文してもらわないといけないのでは」とみる。 今後、配達料を料理の料金に上乗せしたり、店側が負担を求められたりする可能性もあるが、その時期や金額についてウーバーは明らかにしていない。 ◇日本法人「普及率向上に投資期間」 ウーバーイーツは2015年12月、トロント(カナダ)で始まった。日本上陸は2016年9月末。現在は東京のみだが、対象エリアは始動当初の渋谷区と港区の一部から、昨年12月に新宿区、世田谷区の一部、17年1月には千代田区の一部が加わった。 ウーバー日本法人の高橋正巳社長は現状について「サービスが持続可能な状態になるには、一定程度まで普及率を上げる必要がある。今はそのための投資をする期間だ」と説明する。ウーバーイーツは15カ国57都市に広がっており、先行する他都市の取り組みも参考にするという。 また、ダイエット用飲料やコーヒー豆など、従来の出前にはないメニューを取り入れたり、配車サービス(ウーバー)の利用経験がある海外からの旅行客が、滞在先のホテルで利用するなどの需要も見込んでいる。「電話がつながりにくい」という苦情にはコールセンターを強化したほか、配達員が客に会えないなどのケースには、アプリの改善も検討中という。 PR